集団的自衛権の議論―日本の将来―

 初めに武力行使8事例のイラスト説明を見てみる。次に戦後日本の節目ごとの安全保障法制整備の過程を振り返り、現状分析した上で、積極的平和主義の本質について考えてみたい。

武力行使8事例のイラスト説明
 産経新聞記事を借用しているが、法案が成立後に「集団的自衛権を行使するまでの主なプロセス」を説明した内容で、歯止めとして新3要件、国会承認も入っていて分かりやすい。もちろん武力行使はない方がよい。まずは外交努力だ。
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【出典】7月2日付 産経新聞

 ほとんどの事例に米国が対象となっている。なぜ、そうなるかは明白。安保条約があるから。ふつう専守防衛を目的とする日本自衛隊が米軍と共同行動をとることはない。起こりうる事態は通常、日本近海の公海上の有事に限られる。集団的自衛権の議論で今回、あまりマスコミは報道していないが、実はこの議論の根幹に日米安保をどうするか、その是非の問題が横たわっている。

首相の問題意識
 安倍首相の基本的な問題意識は、厳しい現状をどうするのか、何もせずのままでよいのか、憲法の規範の下でもやれる事例があるはずだ、というもの。しかし、現実が厳しいから何をやってもいいとはならない、やれる範囲がある。日本の将来については「積極的平和主義」と語ったが、その内容は抑止力を高めることが主眼となっている。

安保条約と専守防衛
 日本が1951年に日米安保条約を締結したのは、東西冷戦、朝鮮戦争勃発という当時の厳しい安全保障環境の中で、日本独自の防衛力が十分でないのを考慮したもの。各国との平和条約と同時に締結された。この安保は60年に改正されたが、10年間の固定期間終了後、現在1年毎の自動更新で継続中。
 2国間の安全保障条約とは本来、双務的なもの。しかし72年政府見解は「いわゆる集団的自衛権は認められない」とした。以後これが日本の専守防衛の国是となった。このため安保条約は片務性だが、基地の代償を負っている。
 冷静に考えると、日本に安保条約と専守防衛(国是)が存在するのは、安全保障上で日本には異なる2つの基準(ダブルスタンダード)があることを意味する。いくら日本が海外で武力行使はしないと強調しても、各国が言葉どおりに受け取らないのはそのためだ。
 なお現在、自衛隊の装備は侵略戦争をする能力はない。侵略戦争を継続するためには物資・要員の長い補給線を確保する必要があるが、自衛隊にはそうした装備を持ち合わせていない。日本に空母はない、いらない。また、他国を攻撃する弾道ミサイルも自衛隊は保有していない。

現状認識と法改正
 今回、厳しい安全保障環境の現実を直視して、閣議決定、その後の法案作成作業が始まった。そこで、戦後の日本の節目ごとの安全保障法制整備の過程を振り返る。

■1951年(安保、平和条約)※法整備
東西冷戦、朝鮮戦争勃発※国際情勢
■1960年(安保改正・日米地位協定)
東西冷戦、安保闘争
■1972年(72年政府見解、専守防衛)
冷戦雪解け、中国国連加盟(前年)、米中国交正常化宣言、安保固定期間10年終了(以後1年毎自動更新)
■1992年(PKO協力法)
ソ連邦崩壊(前年)、冷戦終了、アメリカ1強と地域紛争時代へ
湾岸戦争(1991年)
■2003年(弾道ミサイル防衛システム整備)【警察権】
9.11アメリカ同時多発テロ事件(2001年)
弾道ミサイルの拡散、国際テロ組織の活動
■2014年(集団的自衛権限定容認)
尖閣領有権、中国のプレゼンス増大、北朝鮮核開発疑惑・弾道ミサイル発射

 このように、その時々の国際情勢を踏まえ、日本の安全保障法制の整備を行い、現実的な対応をしてきたのが経緯だ。

東アジアの軍事プレゼンス分析
 尖閣領有権でオバマ大統領は、尖閣諸島は日米安保の適用範囲だと明言した。しかし有事の際は日本だけで対応してくれ、中国との戦争に巻き込まれたくない、がアメリカの本音。このため、中国とアメリカが全面戦争となる可能性はないと判断できる。
 アメリカは湾岸戦争での海外派兵以降、多くの若い兵士を失った教訓から他国のための戦争参加には極めて慎重姿勢に転換している。今回シリア内戦、イラク内紛でもアメリカは口先だけで、なかなか武力介入しようとしていない。かつて唯一の強大国として「世界の警察官」の役割を自ら任じていたのと様変わり。この内向きの外交姿勢は今後も当分続くとみられる。エネルギー資源も国内で調達可能となり、積極姿勢に転じる動機がない。
 懸念材料は既得権益となっている軍需産業。時には政治的な圧力をかけてきた。アメリカは武器輸出大国でもある。軍需産業にとって紛争・戦争は兵器の性能を検証する絶好の機会でしかない。しかし現在アメリカでは、他国を守るための戦争参加に否定的な意見が優勢。
 このため東アジアでのアメリカの軍事プレゼンスは低下。相対的に中国のプレゼンスが高まっている。中国は力で現状変更を試みて、ベトナムやフィリピンでも衝突を起こしている。日本には竹島領有権があるが、韓国の不法占拠に対して国際司法裁判所に提訴で日本は対応、冷静な判断だった。力で現状変更をしようとした中国はいま国際的な批判に苦慮している。
 厳しい安全保障環境だから日本の抑止力を高めるべきとの判断はありうるかもしれない。しかし冷静に分析すると、有事の際に米艦船(事例1)は日本国民よりまず自国民輸送を優先するはず。仮に尖閣諸島で衝突が起きてもアメリカが積極的に武力介入すると期待できない。つまり、万が一の場合に安保があるのでアメリカが守ってくれるというのは今や死語になりつつある。安保の片務性についてアメリカ国内でも、なぜ米兵士が日本を守らなければならないのかとの批判が高まっている。

尖閣領有権問題の解決―1つの提案―
 そもそも尖閣諸島で衝突が起きたのは、石原元東京都知事の尖閣買収計画とそれは困ると対応した野田元総理の国有化が発端。この時点での中国の主張は「国有化を撤回しろ」だった。中国はメンツを最も大事とするお国柄。今まででどおり棚上げにして、将来の人の知恵に期待する、との対応があればと悔やまれる。
 少し乱暴な提案とはなるが、安倍首相個人に1円で払い下げて登記変更するという解決方法がある。批判を恐れず行動するが安倍首相の信条なので、国民の心配を受け止め、柔軟な発想で実行に移しても良いのでは。判断は首相の度量次第。
 仮に実現したら日中首脳会談はその尖閣諸島を眺める船上でやればよい。話し合いのテーマは、尖閣諸島の日中共同平和利用で、領有権主張を棚上げする形の中国にも経済的利益が伴う内容でメンツを立てないといけない。安倍首相も将来いずれ退陣する時期はやってくる。その時、尖閣諸島は完全に元の状態に戻る。

安保廃止のメリットとデメリット
 現在の国連中心平和主義の流れのなかで、今後アメリカは国連安全保障理事会での決議がなければ、いっさい軍事行動はしないと見極めて良い。このため安保条約は片務性どころか、実際に機能していないとみなせる。国内に米軍基地があることの意味はすでに消失している。普天間基地の辺野古移転問題で沖縄県民の心を二分し、引き裂くことはない。地域に米軍基地があることの地元のやるせない思いは計り知れない。
 安保があるので「口先だけでも抑止力」と考えるのは、いまや現実感の喪失。 むしろ、国内に基地があり、そこから出動して米軍が攻撃をした場合には、最新鋭の装備で相手国は当然にその基地をたたき、日本領土への反撃をする。これが現実の事態だ。
 また、核の傘で守られるとの意見もあるが、核兵器はその残忍さと被害の甚大さから、いまやどこの国も使えない非人道的兵器と見なされている。核兵器の使用について国連で、今後核兵器を使用した指導者は、それが誰でも国際司法裁判所で有罪として断罪されるべきとの意見が優勢となりつつある。
 いまやメリットとデメリットを比較すると、安保条約があることのデメリットの方が大きいと判断できる。コスト的にも米軍基地を撤廃して、自衛隊装備を若干充実させる方が有利なのではないか。
 尖閣領有権を中国が力で変更しようとしている現状について国民はどう受け止めているのか。中国を批判するにしてもアメリカを巻き込んでの戦争は困る、専守防衛の国是から海上保安庁と自衛隊による現在のしっかりとした対応で良い、が素朴な意見ではないだろうか。

自衛隊の装備と士気
 どんな最新鋭の装備でも隊員の士気が低下したら、いざという時に使い物にならない。万一の事態に現場で対応するのは、国会で法律を議論している議員ではない。身体を張って日本への攻撃を阻止するのは若い自衛隊員である。
 真珠湾攻撃の例を出すまでもなく、奇襲攻撃を受けた時に日本は初動の段階では後退することはある。しかし優れた装備と士気の高い自衛隊があれば必ず反撃できる。そして現在は偵察衛星で相手国の異変を常に監視している。このため、ある国で大規模な軍事力が一か所に集中していれば、事前にキャッチして初動体制を整えることができる。そして日本近海では海上自衛隊潜水艦が常時、不審な動きがないか監視体制を続けている。今回の閣議決定が、自衛隊員に国の方向が揺れていると見られたものだったとしたら、どんなに正論でもだめ。
 政治的な立場が異なっても、「自分の国は自分で守る、紛争は平和的解決を原則とする」との考え方に異論はないはず。

積極的平和主義の本質
 実は、安倍首相が言う抑止力を高めることは、積極的平和主義の本質ではない。軍備増強は相手国が脅威と受け取り、再増強の悪循環となる。当面の対応だとしても、今や時代逆行の発想でしかない。
 日本は唯一の被爆国、世界に冠たる平和憲法の国である。国連中心平和主義の基調の中で、日本は充分に国連で核兵器廃絶、紛争の平和的解決に向けたリーダーシップを発揮する資格がある。いままで日本は、内向きの一国平和主義だったと評価できる。なぜそうなったのか。それは日米安保がある限り、日本はアメリカによる核の傘の下にある核兵器依存国であり、安全保障条約で他国へ武力行使をする国だ、と各国に受け止められているからに違いない。少なくても隣国の中国はすぐ目と鼻の先に沖縄をはじめとして米軍基地があるのでそのように受け止め、警戒をしている。胸を張って日本の国是である平和主義を語りたいもの。
 そこで、私が考える積極的平和主義とは次のようなものだ。

日本の将来―私の提案―
 日米安保条約を段階的に解消して、どの国とも等距離中立の外交姿勢に転換する
 日本の防衛は自衛隊のみで行い、集団安全保障による武力行使には参加しない
 簡単に言えば、日本は他国の領土を攻撃しない、侵略戦争はしない、紛争の解決は話し合いでやる。しかし、しっかり国土の防衛はする、そのための自衛隊の装備と士気は維持する、との内容だ。

【説明】
1 安保段階的解消論
 安保を段階的に解消する手順としては、国民の大丈夫なのかとの心配を受け止め、いくつかの段階に分け、そのつど東アジアの安全保障環境の現状を見極めて、判断する必要がある。基地を抱える地域の経済・雇用対策にも配慮しなければならない。
 具体的には条約は破棄するが、米軍の駐留を当面認め、その規模を段階的に縮小させていくのが現実的なプロセスではないか。アメリカは東アジアでの軍事プレゼンスが低下するので建前上、反対するだろう。しかし中国との戦争に巻き込まれたくないが本音。元々、アメリカの世界戦略(アーミテージ報告)の中身はアメリカ利害中心の身勝手な戦略でしかなく、正当性はない。そろそろ日本の安全保障法制上のダブルスタンダードは解消する時期なのではないか。日本がその方向で一歩を踏み出せば、東アジア情勢は平和の方向へと一変するはず。
 最近ではフィリピンの事例が参考となる。フィリピンは世論の高まりで米国との安保条約を破棄し、1992年に米軍は完全撤退した。しかしその後アメリカと共同軍事訓練を行っており、比中衝突の現状を踏まえ、今回米軍の暫定駐留を許可した。もちろんその規模は米軍基地があった当時とは比べようもない。
【注】ASEAN(東南アジア諸国連合)加入の10か国は、米軍と共同軍事演習をすることはあっても、米軍基地は存在しない。外交で紛争を回避する知恵を積み重ね、米軍基地がなくても地域の安全保障を確保する仕組みが機能している。

2 外交姿勢
 さらに外交姿勢では、どの国とも等距離中立の外交姿勢に転換する。北朝鮮とも国交を樹立することになる。日本としては友好国同士として拉致問題全面解決をめざすのが合理的なはず。
 そして、遠い将来、核兵器が全面撤廃され、各国が一致してすべての軍備を放棄して国連平和維持軍が創設された時には、地域の紛争を解決することを目的とした国連の集団安全保障に全面参加します、という外交姿勢だ。当然、その時には憲法改正(加憲)の国民的議論となる。残念ながら次世代の課題ではある。

3 最後に
 このように考え、行動する国に、攻撃をしかけようと考える国はないはず、何のメリットもない。唯一想定されるのは、狂気の指導者に支配された独裁国家くらいしかない。
 しかし、誰であれ指導者が冷静に考えさえすれば、核兵器使用による全面戦争で生き残れる国はどこにもない。
 体制やイデオロギーの違いはある。しかし大切なのはそこに国民、民衆がいるとの視点だ。日本が世界と共有する民主主義の普遍的価値観とは、自由で公平な選挙、政党政治、法の支配、人権尊重、信教の自由、言論の自由、情報公開のはず。これができない国は遅かれ早かれ、国が立ち行かなくなる。相互依存の国際社会の中で孤立する。
 日本の将来を担う若者が、「平和な日本、美しい国土、おもてなしの心」の日本に、自分が生まれたことを心から誇りに思うことができた時、日本の将来は万全となる。

【追記】2017.7.7国連で核兵器禁止条約が採択、「核兵器なき世界」の実現へ一歩踏み出した。

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